『秋の野に 咲きたる花を 指(オヨビ)折り かき数ふれば七種(ナナクサ)の草 芽子(ハギ)の花 尾花葛花 瞿麦(ナデシコ)が花 女郎花また藤袴 朝貌(アサガオ=現在のキキョウ)が花』と山上憶良が万葉集に詠んだ秋の七草のひとつ「クズ」が、蝶形で紫の花を下から順に咲き上がらせている。
今では、空き地や道路の路肩にうんざりするほど生えて害草と化しているが、根から葉まで生活に利用した時代があった。
葉は栄養価が高い(良質の植物性たんぱく質を多く含む)ため家畜の飼料にした。アメリカでは緑肥としてトウモロコシ畑にすき込んだそうだ。
ツルを煮て水に浸し繊維を取り出して緯(ヨコ)糸にし、木綿や麻などを経(タテ)糸にして織った布を葛布(クズフ)と呼び、耐久性や防水性に優れていることから、江戸時代には袴や雨具などに使われ、明治以後襖地・壁装材として利用された。現在では、静岡県掛川の「掛川手織葛布」が有名。土木工事でも崩壊予防として法面に植えられた。
花は酒を消すと言われ、乾燥した花を煎じて飲めば酔わないそうだ。
最後に、根がすばらしい。皮を剥いで乾燥したものが漢方で有名な葛根(カッコン)で、風邪薬(解熱剤)になる。たたいて水に浸し汁をもみだして何度もこすと、くず粉が取れる。現在売られている大半はジャガイモデンプン製。奈良県吉野川周辺は古来、有名なくず粉の産地でクズの名はそこの地名国栖に由来する説が一般的だ。
需要のなくなった今、みんなにクズ呼ばわりされてかわいそうな気もする。
MEMO
マメ科 ツル性多年草 左巻き 3小葉からなる複葉
別名 葉が風にひるがえると裏の白さが目立つことから裏見草(ウラミグサ)
裏見を恨みに詠み替えた歌も多数ある。
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