自らの蓄えを上手く利用する植物たち 3 | 樹木 | |
生物の活動として最も重要と言えるであろう,繁殖活動と貯蔵養分との関わりについてのある仮説をお話しします。 作物ではよく「今年は豊作だ」とか「今年は不作で・・」など言われたりするのをニュースなどで耳にすることがあります。作物の場合,どの部分を食用とするのかがそれぞれ異なるので一概には言えないのかもしれませんが,豊凶はその年の気候に影響されることが多いようです。 その豊凶,実は樹木にも存在するのです。樹木で豊作・凶作といった場合,一般
的にそれは花や種子の生産のことを指します。最も有名な例は「ドングリ」でしょうか。ブナやコナラ,ミズナラといったドングリのなる木にははっきりとした豊凶が見られます。その他にも,身の回りをちょっと気を付けて観察してみると「あの公園の木,今年は花が少ないなあ」とか「今年はうちの庭のコブシがよく咲いているなあ」とか感じることがあるは なぜ,このようなことが起こるのでしょうか?ひとつは,作物と同様に気温や降水量 といった気候が作用しているのではないか,ということが考えられます。この場合,種類が異なると豊凶の年も異なるということから,それぞれの種が異なった「センサー」を持ち,働かせているのかもしれません。気温や降水量は「今年はたくさん花を咲かせるぞ」と(木が思っているかどうかは分かりませんが)いうときのスイッチの役目を果たしている可能性があります。しかし,いくらスイッチが入っても,花や種子を大量生産することができるだけの準備ができていないと応えられないのではないか, と考えられます。つまり,豊凶周期を持つ種類の木は,一度にたくさんの花を咲かせたり種子をつけたりすることができるように,養分を蓄えているのではないか,という仮説です。現在,この仮説が本当かどうかを検証するためにさまざまなアプローチで研究が進められています。ハクウンボクという木を対象として,実際に木の中の貯蔵デンプン量を測定している研究では,豊作となる年には種子がついている枝の最も先端の部分で貯蔵デンプン量がかなり減少することが分かりました。 しかし,豊凶を一通りとらえるには少なくとも5年はかかります 。豊凶に限らず,植物たちのふるまいをより性格に理解できるよう,じっくりと腰を据えて,長い間研究を続けることが重要になってきています。もしかしたら,私たち人間の考えがおよばないほど植物たちは複雑なシステムを持っているのかもしれませんし,逆にとても単純にできているのかもしれません。 貯蔵養分,というひとつのものの見方から出発したこれまでの話ですが,ひとつの側面 がさまざまな現象と関わり合っているということにちょっとでも考えを巡らせれば,植物たちがいつもとは違 った姿に見えてくるかもしれません。【志水謙祐・嶋田泰也】 |