自らの蓄えを上手く利用する植物たち   樹木

植物が太陽からの光エネルギーと大気中の二酸化炭素,そして水を利用して光合成を行い,生きていくのに必要な栄養分を獲得する,というメカニズムについては以前お話しましたが,今回は光合成によって獲得した栄養分を上手く利用しながら生活している樹木たちについてのお話です。

 樹木は草花と違って,円周に沿ってぐるりと連続した維管束形成層という組織を持っています。この組織は木の幹の内側に水の通り道である道管を含む木部と呼ばれる組織を,外側に栄養分の通り道である師管を含む師部と呼ばれる組織を作ります。誰もが知っている木の年輪は木が年々成長した跡,というわけです。このような組織を持つことで,樹木は上に伸びるだけでなく,横方向へ太ることを可能にしているのです。幹が横方向へ太ることで樹木自らを支える力が大きくなり,より上へ上へと成長することが可能になります。さらに,幹や枝,根の中にはデンプン,タンパク質,脂質などの栄養分が貯蔵されています 。

木材を構成する細胞には水分や栄養分の通り道となる道管,師管のほかに,体を支える役目をする木部繊維,さらに栄養分の貯蔵の役目をする柔細胞と呼ばれるものがあります。この柔細胞は他のものに比べてとても長生きで,数年,数十年にわたって栄養分の貯蔵の役目を果たします。幹が横に太ることで,自らを支える力が大きくなるのと同時に栄養分を貯蔵するスペースも獲得していることになります。

草花でも数年にわたって生きるものはその体の中にある程度の栄養分を貯蔵しています。しかし,地球上で最も寿命の長い樹木という生きものが持つ,数年,数十年にわたって栄養分を貯蔵するという機能の意味は草花以上のものであろうことが予想されます。【志水謙祐・嶋田泰也】