植物にとっての腹一杯(光が過剰に当たりすぎる)とは? | ||
今回は光条件の良い場所に生育する植物にとって,その過剰な光(目の前に並べられたたくさんの飯)が害を及ぼすという話です。強光にさらされている植物は,悲しいことに腹一杯だから「もういらない」ということはできず,その条件に耐えながら,光合成を行います。しかし,いつまでもその状況に耐えられるわけではなく,最終的には過剰な光によって光合成速度が低下する現象「強光阻害」を生じ,生長がマイナスの影響を受けます。 強光阻害のメカニズムは複雑で,まず光合成のメカニズムを知らなければなりません。前々回(第1話)にもお話ししたように,光合成とは太陽光,水,二酸化炭素を使って植物の葉が炭素を固定し,酸素を放出する反応のことを言います。この反応は大きく2つ(明反応-暗反応)に分けることができます。 明反応:太陽光から得たエネルギーを用いて水を分解し,酸素を放出する反応のことです。この過程で,次の暗反応を進めるのに必要なエネルギーを作ります。また,水の分解で生じた酸素は大気中に放出されます。 暗反応:明反応で作られたエネルギーを使って,カルビンサイクルと呼ばれる回路を回します。その回路を二酸化炭素がぐるぐる回る過程で,炭素が糖の形で固定されます。光がなくてもこの反応は進むので暗反応と呼ばれます。
光阻害は以上にあげた2つの反応系のうち,どちらか一方がとまることで生じます。光阻害の原因として主に次のことが考えられます。 1) これは直射日光を長時間浴び続けた葉の温度が上がり,光合成を行うタンパク質が壊れることです。タンパク質は40℃を超えるあたりから働きが鈍くなり,50℃近くになると完全に働けない状態になります。人間と同じで暑いときにはやる気をなくすのです。 2)これは葉温の上昇によって葉内の水分がどんどん放出され,水不足に陥り,明反応が進まなくなることです。人間で例えると,脱水症状と同じ状態です。しかし,脱水症状の葉は葉面積が小さくなり,太陽光の当たる割合が小さくなるので,結果的に葉温上昇を緩和することになります。 3) これは2)の水不足を回避するために,水や二酸化炭素の出入り口である気孔を閉じてしまうことで,二酸化炭素の吸収ができなくなり,暗反応が進まなくなることです。しかし,気孔を開いてしまうと水不足になります。植物はこのようなジレンマに常にさらされています。 以上,光阻害について書いてみました。特に人の手が入っている街路樹や庭木,観葉植物などでは夏場に「光阻害(腹一杯現象)」が生じている可能性が高いと思われます。【志水謙祐・嶋田泰也】 |