生死をかけて絵を描く ハモグリバエ
 絵描き虫(ハモグリバエなど)は幼虫期を葉っぱの中で過ごす昆虫。うすっぺらい葉の中でくらすため、体長は数mm程度だが、雨や捕食者から逃れることができる。

 ところが天敵の寄生バチ(ヒメコバチ)は視覚や音響探知により葉の中に隠れるハエ幼虫を見つけ出し、卵を産みつけ寄生する。一度発見されると逃れることは難しい。ハチから身を守る手段はないのだろうか?

 同じ種の絵描き虫であっても複雑な食べ痕を残すものや、その逆のものもいる。私たちはそのことに注目して食べ痕の複雑さとハチの探索効率を調べてみた。その結果、ハチが複雑な食べ痕に惑わされることが初めて明らかになった。幼虫を探し当てるまでに食べ痕に交差があると、同じところを何度も探し直すため数倍の時間がかかるのだ。また探索を途中で放棄するハチもでてきた。

 ハチは食べ痕をたどってやってくる。だから食べ痕を単純なものにすると速攻で見つかってしまう。そこで絵描き虫は交差をつくったり、曲がりくねったものにしたり、と食べ痕を複雑なものに仕立てていたのである。

 絵描き虫の食べ痕には生死をかけた意味が隠されていた。虫の食べ痕は多種多様。その多様性にはまだまだ未知の意味があるのかもしれない。

上野高敏/九州大学農学研究院助教授(掲載:自然保護NOV./DEC.2004 No.482)